疲れて、少し眠ってしまったようだ。
 雪は、もう止んでいる。

 「…あ、」

 私の肩に顎を許し、規則正しい寝息を立てる彼女を意識する。
 躊躇いながら、手を伸ばす。
 頬に触れる。
 初めて出遭ったときの感覚に、今なら名前をつけてやれる気がする。
 遣る瀬無い、胸が締め付けられるような感覚に。
 それと同時に、絶望的な感覚に。
 それは、同じものだから。

 それでも、私たちは仕えなければならない主がいる。
 束縛が、契約が、義がある。
 絶望的に縛り付け、抗えない。

 忘れるな。
 私と彼女は、敵、なのだ。

 「起きないで…」

 ここで果てたい、と。
 自らでは甘んじて叶えることの出来ない、想い。

 何もなければ、もっと身軽だったら。
 背負っているものを、簡単に投げ出せたなら。

 共に果てようと言っても、受け入れられることはない。
 ふ、と詰めていた息を吐き出した。

 「起きて…、起きて」

 軽く、頬を叩いた。

 「ん…?」

 ゆっくりと、瞼が持ち上がる。
 焦点の合わない瞳がふわふわと彷徨い、やがて定まって私を見止めた。

 「…なんだ」
 落胆の色が見える呟きを、彼女がこぼす。
 持ち上げられた瞼は、再び伏せられて影を成す。

 表情から、彼女の思考を読もうとした。
 そして、気付く。

 「果てられなかったか…」

 寂寥、落胆、そして少しの歓喜。彼女の苦笑には、それらが浮かんでいる。
 私は、少し笑った。

 絶望的な状況は、何ら変わっていない。
 いつ助けが来るとも、いつ果てるとも知れない。
 私と、彼女。
 ならば、

 「ねぇ…」

 自分でも驚くくらい艶やかな声で、彼女の耳元で、
 囁く。

 そして、唇を寄せた。

……………・・・ ・ ・ ・