再会 -We met again by chance.-


 顔を合わせた瞬間、相手が先に「お、」という口を作ったのが見えた。
 それから半拍、自分も「あ、」と声に出していた。
 
 前から歩いてくる2人連れの片方に、見覚えがあった。
 髪は男性のように短く、恰好もボーイッシュなものだったけど、昔の面影がある。
 
 昔の面影を見出したのは相手も同じらしく、視線を固定させたまま近づいてくる。
 
 「やぁ、水玉(みなた)さん、凄く久し振り」
 「そういう貴女は風祭さん」

 少し低めの優しい声で言った後に、笑った顔がキラキラしていた。
 つられて、口角を上げてしまう。

 「ほんとに久し振りだね。小学校卒業以来だから、2年振り、くらい?」
 「そうね…」

 懐かしさに、思わず2人で往来に佇む。
 私より少し高い位置にある双眸が、こちらを観ていた。

 「紗玖ちゃん、友達?」

 怪訝そうに訊いてきた友人の声で、私は我に返る。
 風祭さんは、ちょっと申し訳なさそうに苦笑していた。
 
 「うん、そうなの…」
 
 せっかくあえたのに。
 その時、私は凄く残念そうな顔をしていたと思う。
 
 「ごめんね、水玉さん」
 風祭さんが謝ってくる。
 
 「また、今度ゆっくり逢いたいわ」
 私は言った。

 「そうだね…」
 そう言いながら、風祭さんはジーンズのポケットを探る。
 手に現れたのは、黒いボディの携帯電話だった。

 私も、慌てて鞄の中から携帯電話を取り出す。
 
 「アドレス、教えておくから、暇なときに連絡してよ」
 「ええ、わかったわ」

 そう言って、ピコピコと電話を操作する風祭さん。
 私も、赤外線受信が出来るように操作する。
 
 それから、一方的にアドレスを貰った。
 それ以上、時間をかけたくないと言うのが、本音だろう。私の友達を待たせてしまうから。

 「じゃね」と、彼女は右手を挙げて去っていった。
 それを見送ってから、私は電話を鞄に仕舞う。

 「…今のって、風祭美月だよね?」
 「そうだけど、さくらちゃん、知ってるの?」
 「うん、ほらアタシ、バスケやってるじゃない?」

 練習試合で当たった女子中に、格好いい子がいたの。それで、ちょっと、ね。
 そう話すさくらちゃんは、少し嬉しそうだった。
 
 「紗玖ちゃん、風祭さんと今度遊ぶの?」
 「…うん」
 「いいなー、アタシも混ぜてー」
 「…」

 何だか、複雑な気分になった。
 小学生の頃は、あんなに無邪気に、一緒に遊んでいたのに。
 少し逢わないだけで、彼女は背が伸びて、自分の世界を広げているように感じた。
 
 振り返っても、もうその背中は見えない。
 
 次に逢うまで、私も変わろう。
 そんな気に、なった。

 「紗玖ちゃん、置いてくよー」

 それから私は、少し離れてしまった友人の後を、小走りで追いかけていった。


 了