仄暗い


 鍵を貸したのは、まだ今より彼女が目に見えて荒れているときだった。
 少しでも、避難場所を作れればと思って、鍵を貸した。
 今も文句は言いつつ、そこで荒んでいる彼女の行動を止めようとは思っていない。
 ただ、心に余裕が出来て隙間があるなら、入り込めればいいと思う。
 そういう、汚い打算があった。
 別にそれを悪いことだとも、嫌だと思ったことはない。
 それはもう、自分を構成するひとつだから、別にそこにあることが普通で。
 だから、それに対しては、何にも感じない。



 子供扱いされるたび、違和感を感じていた。
 確かに、大人からすると子供なんだろう。
 でも、大人が思ってるほど、子供でもない気がする。
 そうやって違和感が生まれても、それを自分の中で押し殺す。
 別に腹が立つとか、そういうのはもうない。
 昔は、いちいちむっとした表情をしていたけど。

 そんな違和感に馴染んでいくのが、大人への第一歩なのかもしれない。
 それに反発しているのが、れいななのかもしれない。

 ぐちゃぐちゃ考えるのは、らしくないと思う。自分で思うんだから、きっと周りもそう思うだろう。

 ただひとつ。
 自分が先に大人になってゆくなら、れいなは出来る限り子供のままでいてほしいと思う。
 一足先に大人になってゆく自分が、れいなを、れいなの世界を守っていけたら、と思う。

 そうやって、自分の失くしていったものをれいなの世界に押し付けていく。
 そういう思考。

 いつだって、表面から見えないよう仄暗さが自分の中にある。
 だから、絵里は絵里を自分だと認識し、諦められる。

 歪んだ内面は、大切にするということすら歪んでいて。
 ぐにゃぐにゃだ。

 こんな絵里を知ったら、れいなはどう思うかな。
 知られたくない。
 歪んではいるけど、離れ離れになるのは嫌だ。
 束縛したい。

 繋ぎとめていたい。
 そう思って、手を伸ばして、絡め捕る。

 ただ、そうやって、二人で生きている。生きていきたい。
 そうやって、繋ぎとめてる。