* * * * 

 「みきたん、みきたん」

 ぺちぺち、ぺちぺちと頬が鳴っている。
 耳に馴染んだ声が呼んでる。

 瞼を持ち上げると、そこにはどアップの亜弥ちゃんがいた。

 「ぅわぁっ」

 びっくりして、突っ伏していた化粧台から勢い良く顔を上げ、
 思わず躰を後ろに引く。
 がたん、と簡易椅子が鳴った。

 「うわ、ひで」

 言葉とは裏腹に、亜弥ちゃんは笑顔だった。
 美貴は、何となくほっとして、詰めていた息を吐き出す。

 「変な夢みちゃったよ…。何か、亜弥ちゃんがさぁ…」
 「あー、分かった分かった。あたしが可愛い夢でしょ。
  時間無いから、さっさと行くよ。
  いつまでも起きてくれないからさぁ…」

 ぶつぶつと言いながら、亜弥ちゃんは先に楽屋を出て行く。
 美貴も後に続こうと、化粧台に手を突く。

 そして、触れたのは。
 黒いセルフレームの、それ。

 ぞくり、と悪寒がはしる。

 「まさか、ねぇ」

 あはは、と笑って誤魔化す。

 美貴は、楽屋を出て行く亜弥ちゃんの口許が、にやりと歪んだことを知らなかった。