その先へ



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 数日後。
 アタシは偶然にも、あの雨の日の女の正体を知ることとなった。
 梨華とふたり、深夜のコンビニに買出しに行ったときのことだった。
 あれやこれやと目移りしている梨華を余所目に、アタシは雑誌のコーナーに直行。適当に手に取った雑誌を適当に開いたそのページに、雨の日の女はいた。
 そこでアタシは、女の名前と、そして女の想い人の名前を知った。
 2人は、少し前に全盛を極めた国民的アイドルグループの一員であった。
 グループ自体はもう解散していたが、2人とも女優や歌手として活躍している。

 「り、梨華、梨華!」

 ビックリしたアタシは、慌てて一緒に来ていた相方の名前を叫んだ。
 もう、何よひとみちゃん、煩いし他の人に迷惑でしょ、とか何とかぶつぶつ言いながら、梨華はアタシの隣に立った。
 そんな梨華に、押し付けるように雑誌を渡す。

 「こ、これ、これっ」

 今度は声を潜めて、記事を示す。
 不満顔ながら、梨華はその記事を目で追い始める。そして、その表情が徐々に変わっていった。
 それから、ぽつりと、キィワードをこぼす。

 「無理、心中…?」

 記事には、その2人の死亡が書かれていた。
 記事にある日付は、あの、雨の日だった。
 逢いに行く、と言ったのは、このためだったのか。
 記事のカットには、何枚かの写真が載っていた。そのなかには、サングラスをして買い物をしている2人の様子を写したものもある。いつの頃の2人なんだろう…。
 アタシは、怒りとも悔しさともつかない感情に襲われて、強く唇を噛んだ。
 梨華は隣で、放心したようにその記事を眺めていた。

 「…後は任せた、ですって」

 梨華が、記事にあった言葉を声に乗せる。
 そのメッセージは、アタシたちに宛てたものなの?
 知らず知らずに強く握り締めていた拳に、梨華の手が触れる。包み込んでくる。

 「…この2人、幼馴染だったんだね」

 思考が追いつかずに、ぐちゃぐちゃになったところから言葉を零した。
 記事には、2人の生死は詳しく書かれていない。

 「…考えても、仕方のないことよ、ひとみちゃん」

 そんなふうに冷たく一言で片付けて、梨華は雑誌を元に戻した。
 身を翻して出口に向かう一瞬、梨華が眉間にきゅっと皺を寄せるのが見えた。
 アタシは、それに気づいて、気づいてしまって。ちょっとだけ苦笑して、凛と伸ばされた背筋を追った。
 
 未来なんて、ホントにどうなるかなんて、今のアタシたちにはわからないけど。
 幸せになるんでしょ、梨華。
 一緒に、その先へ。何があっても、一緒に。




 了