世界の果てのような、地下室で


 見上げた先には、剥き出しのコンクリート。
 背中を預けた壁もまた、冷たいコンクリートで。
 容赦なく体温を奪っていく。

 無機質で殺風景な冷たい部屋で、唯一温かいものは、絵里の隣にある。―――いる。
 れいなが、隣で眠っている。
 べったりと背中を壁に預け、少し首を傾げながら眠っている。
 眉間には、皺。時々 苦しそうな唸り声をあげながら、ピクリと手を持ち上げて何かを振り払うような仕草を見せた。

 ちょっかいを出すと、更に眉間の皺を深くする。
 えへへ、と笑うものの、その笑みはすぐに絵里の顔から消えた。

 れーなが何考えてるかわかんないよ。
 昔はよく一緒に遊んで。何をするにも一緒だったのに。

 一瞬、あの先輩の顔が浮かんだが、無理矢理掻き消す。
 ぷにぷにと頬をつまんでいると、れいなの躰がこてんと傾いて絵里のほうへ倒れてくる。
 思わず、絵里は躰をビクリと強張らせた。
 れいなを窺うと、起きてはいない。小憎らしいほど良く寝ていた。

 絵里はふぅ、と小さく溜息をこぼす。
 突き放したかと思えば、優しくて。

 「何考えてるんだよー」

 無防備に投げ出されたれいなの右手に、自分の左手を絡める。

 れいなが何を考えてるかなんて、絵里の計り知る範囲のことではなかった。
 考えても、わからない。

 でも、まぁ、
 と思考を切り換える。
 こうやって、甘えてくれるなら、いいか…。
 胸に生まれた小さな痛みに気付かない降りをしながら、絵里は微笑う。
 いつもみたいに、お気楽に考えよう。

 「ふあぁ…なんか絵里も眠くなってきちゃった…」

 そう呟き、こつりとれいなの頭に頭をくっつけた。
 数分もしないうちに、規則正しい寝息が立つ。

 「………ひとの気も知らんと…」

 眠っていたはずのれいなの口から、心底呆れたような声がこぼれた。
 ふぅ、と唇を尖らせて溜息をつく。

 今は、二人このままでいいか…。
 なんて、ほんとは絵里と似たような考えでいるのは内緒である。

 もう少し、待ってみよう。待ってて。
 まだ、焦ることなんてないんだから…。