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 相変わらず、外は白い。
 時間が経って気温が上がった所為か、家を出てきたときよりはべちゃべちゃになっていた。
 水を飛ばさないように、慎重に歩く。
 後ろから、ゆっくりと梨華がついてくる。
 ひとみはくるりと躰を回転させ、梨華を見た。

 「…ありがと、ごちそうさま」

 ごしょごしょと、かろうじて梨華が聞き取れるような声で、そう言う。
 それでも、梨華の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

 二人で並んで、来た道をゆっくり歩く。
 まだまだ、休日は残っていた。

 「…よく、あんな店知ってたね」

 ぽつりと、ひとみが呟く。
 それを聞いた梨華は、少し複雑そうな表情で笑った。

 「友達に教えてもらったの。…ひとみちゃんと一緒に行こうと思って…」
 「?」

 一緒に行くだけなら、何でそんな歯切れの悪い台詞?
 と、声には出さず、首を傾げる。
 梨華は曖昧な笑みを浮かべ、言いよどむ。
 少し歩みを遅らせ、ひとみの一歩後ろに入る。
 ひとみは、ますます困惑顔。
 首を巡らせ、梨華を窺う。
 少し俯き気味の梨華の表情は、ひとみからは見づらい。

 「…あのね、ひとみちゃん」

 すぅと息を吸い、思い切ったように梨華が口を開く。
 呼ばれたひとみは、眉間に皺を寄せて梨華を見る。
 何を言われるのか、皆目見当も付かないのだろう。
 じりじりと、時間が過ぎる。

 一箇所に留まり続けることは、寒がりのひとみには酷というものだった。
 気温は上がってきたとは言え、今は冬だ。

 「梨華ちゃん、とりあえず行こう」

 そう言って、梨華の手を取って足早に歩き出す。
 近くの自販機で、カイロ代わりに温かい飲み物を2本買って、1本は梨華の手に納めた。コーヒーと、紅茶の缶。コーヒーは梨華の手に。紅茶はひとみの手に。

 「さっきと逆だね」

 そう言って、梨華は笑った。
 伏目がちに下を向きながら、両手で缶を包み込む。
 ひとみは、何度か掌で缶を転がしてからプルタブを持ち上げた。
 空いた缶からは、白く湯気が上がる。
 ずず、と一口啜り、ひょいと肩を竦めた。

 「…で?何」

 そっぽを向いたまま、素っ気無く、ひとみが言う。
 促された梨華は、俯いたまま曖昧に笑った。

 しばらく、沈黙のまま。
 時折、ひとみが寒さに肩を竦めるだけ。

 「……好き」

 不意に、梨華がぽつりと言った。

 「は?」

 思わず、ひとみは怪訝げな表情を浮かべてしまう。
 梨華はすっと顔を上げ、真っ直ぐひとみを見た。

 「ひとみちゃんのことが、好きなの」

 ひとみの手から、缶が滑り落ちる。
 それは、中身を地面にぶちまけて転がった。
 白に、ミルクティ色が広がる。

 「え、っと?」

 混乱するひとみを他所に、梨華はミルクティがこぼれた地面を見ている。
 そして、次の瞬間、自分の持っていたコーヒーをミルクティの上にぶちまけた。

 「…あのー石川さん?」

 梨華の行動の真意が読めず、ひとみは呆れたような声を出す。
 呼ばれた梨華は、満面の笑みでひとみを振り返った。

 「あんまり、深く考えないで。こういうことだから」

 そう言って、梨華は飲み物がこぼれた地面を示す。

 「スクーロみたいね」

 ふふ、と笑って、さっさと歩き出す。
 ひとみは置いてけぼり。

 「早く帰りましょ、ひとみちゃん」

 歩きながら、梨華が振り返る。
 ぽかんとしていたひとみは、それで我に返る。
 なんて、一方的な、と苦笑する。

 そして、早足で梨華にならび、追い抜いた。
 追い越しざまに、梨華の手を取る。
 その頬は、少し赤く染まっていた。

 後ろでは、梨華がはにかむように顔をくしゃくしゃにしていた。
 予想外の雪が、勇気をくれた。