デート


 美貴の表情は、あからさまに阿呆臭いと言っていた。
 ばっさりと、それはもう容赦もないほど切り捨てる。

 ひとみはがくりと項垂れ、情けなくへへへと笑った。

 「もうそろそろ着く頃なんだけど、ウチこの後ちょっと用事もありまして…。
そこで、美貴様のお力を借りたく…」
 「わかった、いいよ」

 かくして、藤本美貴は未だ逢わない彼の人と、デートをすることになったのである。

 * * * * 

 待ち合わせは、某カフェで。
 適当に、それらしく東京案内を頼む、とのこと。

 美貴は手持ち無沙汰に携帯電話を弄繰り回しながら、窓の外を眺めていた。
 正直、面倒臭かった。

 見せてもらった写メにあったのは、可愛らしい顔だった。
 しかし、気の弱い女の子でもなく、どこか一本、芯の通ったような強さを持ったような女の子だった。

 相性バッチリだといいけど。
 どちらかと言うとマイナス面に傾いた感想を胸に、美貴は彼の人を待つ。
 名前は、松浦亜弥。
 美貴より二つ下の学年。
 それ以外の説明は、ひとみからはなかった。

 「はぁー…」

 盛大に溜息をつき、カウンター状のテーブルに左頬をべっとりとつける。
 ひとみは要件だけ告げて、さっさと帰ってしまった。

 「…暇」

 ぼそりとこぼしてみても、状況は変わらない。
 ひとみが帰ってから、もうそろそろ30分が経とうとしている。
 飲み物一杯で粘るわけにも行かず、ケーキを追加注文してから、15分。
 皿も、コップも、空だった。

 ケータイのゲームも飽きた。
 そろそろ違う刺激が欲しくなってきた、呼び出されてから1時間10分目。

 「あのぉ、藤本さんですか?」

 少し高いような、それでいてアルトっぽいような感じの声が、背中に聞こえる。
 美貴は、ダルそうに躰を起こして振り返った。

 「そうですけど、そういう貴女は松浦さん?」

 普段キツイと言われている目付きは、初対面の人の前だとさらにきつくなる。
 並みの相手なら、怯むところ。

 だが、目の前に立つ人物は、その眼光をモノともせずに笑った。
 逆に美貴が、面食らう。

 「そうでーす。今日はよろしくお願いしますー」

 にこりと笑って、一礼。

 「…よろしく」

 松浦亜弥は、何の臆面もなく美貴の隣に座った。
 些かペースを崩された美貴は、ふーと長く息を吐いた。
 傍らのケータイを引き寄せ、ぴこぴこと操作する。

 「何処行きたいとか、希望あるの?」

 ディスプレイから視線を外さず、隣の亜弥に問いかける。
 ……。
 数十秒、反応がない。
 美貴は、思わず顔を上げ、隣を見る。

 「ぅげっ?」

 そして、そこにあるきらきらな瞳とモロに視線を合わせ、固まった。
 亜弥は、じっと美貴を見詰めている。

 「…な、何」
 「藤本さんって、綺麗だなーと思って。」

 満足気に、言い切る。

 「そ、そんなことより!」

 自分のペースを崩された美貴は、声を荒げる。
 亜弥はきょとんと目を丸くし、それでも直後にはニコニコと美貴を見た。

 埒が明かない。
 そう思った美貴の行動は早かった。
 亜弥の腕を取って、立ち上がらせる。

 「とりあえず、出よう」

 亜弥を引き摺るように、美貴は店を出た。


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