仮面舞踏会は、異常なほど豪華になると推測された。
 舞踏会が開催される部屋は、豪華な7つ続きの広間に決まった。
 舞踏会が催されるような続きの間は一列に並び、部屋の仕切りを取り外し、端から端までが見える、死角のない設計のものが一般的である。
 しかし、国王の酔狂がなせる業か、部屋の並びは不規則で、広間は仕切りが多く残っていた。7つの部屋全ては、一応のところ繋がってはいる。しかし、本来部屋の仕切りがある部分には、中途半端に仕切りが残り、死角が多く出来ていた。
 また、部屋ごとに「色」が異なっていた。ひと部屋ひと部屋に「色」が定められ、調
度品、ステンドグラスの窓などはその色の法則に則った色のものが配置されていた。
 第1の部屋は青、第2の部屋は紫、第3の部屋は緑、第4の部屋は橙、第5の部屋は白、第6の部屋は菫といった具合だ。
 そして、第7の部屋では、黒いヴェルヴェティーンのタペストリーが隅々まで包み込み、ランプや豪華な大燭台はなかった。第7の部屋が他の部屋と異なるのは、窓の色だった。それは、緋色―そう、濃厚なる血の色をしていた。
 
 部屋は、大きな三脚の火桶で燃える炎がステンドグラスに映り、煌々と照らし出されていた。
 血の色に染め上げられた部屋に、あえて入ろうとするものはいなかった。
 その上、この部屋には西側の壁を背に、巨大な黒檀の時計がある。大きな振り子はその仕事を果たして、鈍重な音を出している。その振り子が、文字盤の上の長針をきっかり1回転させると、大きく深い音楽的な音を流す。
 独特なその音に、楽団は演奏をやめ、周囲は凍りついたように時計の音を聞く。

 「…」

 その様子を見るたび、アヤの眉間には深い皺が刻まれた。
 何か、趣味悪い、気味悪い…。
 そう言いたそうな眼差しを傍らのミキに向けるが、当のミキは目を瞑り、音に聞き入っている。
 ミキのいる場から、第7の緋色の部屋は見えない。
 
 やがて時計の音が止むと、人々はまた陽気な舞踏会を再開させる。
 明るい笑い声と音楽とが、部屋の隅々にまで甦る。

 「あやちゃん」

 呼ばれて、傍らに座る人物に視線を落とす。
 見上げられて、もろに視線がぶつかる。
 無言で、手を差し伸べられた。

 「…」

 微笑むミキの顔と、差し出された手を1度ずつ数秒見詰め、それからその差し出

された手に応えた。
 ぐい、と引き上げ、躰を腕に収める。

 ミキは、とても傲慢だった。ともすれば、人々から嫌われかねない要素を持っていた。
 しかし、それ以上の何か―カリスマ性と言うものだろうか―を持っていた。
 人々は、ミキのそのカリスマ性を、陽気さを、大胆さを慕って集った。
 それが表れているのが、今の城内の人々や雰囲気だろう。

 2人は、踊った。
 軽やかなステップに、周囲の人々は踊りながらはっと息を飲む。
 アヤがリードし、ミキが存在感を表す。
 しばらく、そうやって時間は流れた。